桜ノ華
決意
「行ってらっしゃいませ、啓志さん」
「ああ、行ってくる」
出張に向かう啓志を見送り、掃除を始める。
隅々まで綺麗に、時に思い出に手を止めながら。
本棚を掃除すれば、高校時代に自分が勧めた本があって。
クローゼットには青いネクタイ、青いシャツ、
青がかったスーツがたくさん。
―「啓志さんには青が似合います」
いつだったか、そんなことを言ったな、と思い出しながら。
「…うん、綺麗」
窓ガラスまで完璧に磨き上げ、ぐるりと部屋を眺めた。
すう、と息を吸い込み、部屋中に充満する彼の匂いを確かめる。
「さようなら、啓志さん。愛しています、永遠に」
ぽつりと呟き、部屋を出た。