桜ノ華
無事退院し、椿を抱いて出かけることが増えた。
見つかるたび陽人には心配されるけれど。
啓志と約束を交わしたこの丘は、
海を一望できるし桜の木もある。
青色と桃色のコントラストが美しい、
桜のとっておきの場所だった。
「啓志さん…早く来ないかしら…」
そして、ああ、あの頃の感情に似ているな、と思う。
高校時代、裏庭で啓志を待っていたあの頃に。
思いを馳せ瞼を閉じると、背後に人影を感じた。
期待を胸に振り向くと、そこに居たのは見たこともない人。
「…三条 桜さん、だね」
「…は、い…」
「初めまして。南十字 啓一郎だ」
「…!」