あなたと恋の始め方①
 約束だと折戸さんは念を押すと、またクスクス笑う。


 そして、スーツを着ながら私の方を見つめていた。とっても嬉しそうな折戸さんの顔を見ていると本当に私が一緒に食事に行ってもいいのだろうかと思うけど、深く考えずいることにした。今はプロポーズのことは忘れて、わざわざ静岡まで来てくれた折戸さんと食事をすることを優先する。


 正直、恋愛経験も皆無な私が結婚とか考えられない。


 でも、私の気持ちとしては折戸さんのフランスでの話ももう少し聞きたかったし、何より、私は折戸さんのことを人間として尊敬もしている。そういう面では好きなのかもしれない。でも、私にはこれが恋愛としての好きというのとはなんとなく違うくらいは分かっていた。


 折戸さんはもしも私が一緒に食事に行ったとしても、変な風に考えたりはしない。それも分かっている。


「はい。あの、何時ごろにしますか?」


「美羽ちゃんの仕事が終わり次第でいいよ。遅くなっても俺は待つから」


 折戸さんの言葉はドキッとさせる。恋愛経験が豊富な女の子できっと折戸さんの言葉にはドキッとするだろう。甘い言葉は別に作ったものではなく、折戸さんの普段通りなのだから仕方ないと分かるけど、それでもドキッとしたのは間違いなかった。 


「そろそろ行かないと坂上さんの昼休みが終わるよ。仕事の邪魔をするつもりはないからね」



 高見主任はというとたちのやり取りには興味がないらしく、既に靴を履き終わっていた。

< 102 / 403 >

この作品をシェア

pagetop