あなたと恋の始め方①
 高見主任の言葉で不意に現実に戻る。折戸さんと一緒にいるとつい現実なのか、これが都合のいい夢なのか分からなくなるけど、いつも現実。そして確実に時間は進んでいて、急いで帰らないと午後の始業時間に間に合わない時間になっていた。


 研究職だから、仕事のキリがいいところで食事をすることが多く明確な食事時間とか休憩時間は決まってないものの決められた休憩時間をだけは守るようにしている。今日は久しぶりに高見主任と折戸さんが静岡研究所に来てくれて嬉しいけど、特別に時間を延ばすことは出来ない。


 中垣先輩はそんな細かなことはどうでもいい人なんだけど、私がそういうのが嫌だった。融通が利かないと自分でも分かるけど、今まで生きてきた自分を簡単には変えられない。


 高見主任が居たからといえ、特別はない。


「そうですね。もうそろそろ仕事に戻ります。今日は高見主任と折戸さんに久しぶりにお会いできて嬉しかったです」


「坂上さんが仕事を頑張っているのは知っていたけど、それでも久しぶりに会って、俺の予想以上に頑張っている姿が見れてよかったと思う」


 高見主任の言葉にフッと心が軽くなる私がいた。今は本社営業一課ではなく静岡研究所の研究員である私だけど、それでも高見主任にとってまだ大事な部下の一人なのかもしれない。厳しいのに情が厚いのは今も昔も変わらない。


 会計のレジの前で私が持ってきたバッグからお財布を取り出そうとすると。それは高見主任に止められた。
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