あなたと恋の始め方①
「じゃあ、美羽ちゃん。また後から連絡するね。何が食べたいか考えておいてね」

 
「はい。仕事が終わり次第連絡します。でも、遅くなりそうな時は早めに連絡するつもりですが、お待たせすると思うのですが本当にいいのですか?」


「もちろん。美羽ちゃんの研究が決まった時間に終わらないのは分かっているから気にしないでいいよ」


「はい。では失礼します」


「ああ」


 二人は私に綺麗な微笑みを残してから駅の方に向かって歩き出していた。真っ直ぐに綺麗に歩く後ろ姿を見ていると、不意に折戸さんが振り向き、私の方に向かって軽く手を挙げた。眩そうに目を細めながら見つめてくる折戸さんの視線は熱く、そんな風に見つめられるとどうしていいかわからなくなる。



 営業一課で一緒に働いていた時と違う。



 綺麗な笑顔に私が頭をぺこっと下げると、私は研究所への道を急ぐことにした。午後の始業時間には間に合う時間だけど、少し早足で歩くのは少しでも早く研究所に戻って折戸さんとの夕食の約束の時間を少しでも早く行きたいと思ったからだった。折戸さんはいつまでも待つと言ってくれたけど、それでも私は待たせたくない。


 急いで歩きながら私は自分の中のスイッチが切り替わるのを感じていた。さっきまでの休憩モードから仕事モードに切り替わる。我ながら仕事人間だと苦笑してしまいそうだけど、研究室に滑り込んでいる私は息が少し切れていた。


 もちろん始業時間前である。

< 106 / 403 >

この作品をシェア

pagetop