あなたと恋の始め方①
 安心という言葉の中に私がどれだけ折戸さんに大事にされているかを改めて知ったような気がした。


 折戸さんが今回日本に帰ってきた理由は研究所での新製品の進捗状況を確認というのもあったかもしれないけど、それなら研究所のデータベースを見ればいいはず。なのに、今回わざわざ帰国したのはフランスとの交換留学が上がっていて、そこに私の名前を見つけただからと思った。


 本社に用事があったのだと思う。研究所の視察もしないといけなかったと思う。


 でも、私が本社営業一課から静岡研究所に転属して、どのような仕事をしているのかを見てみたかったのだろう。


 いくら鈍感な私でも折戸さんが日本に帰国して一番に会いに来てくれたのは意味がないとは思わない。折戸さんが私の対する思いは真摯でとても誠実なものだった。好きという気持ちも伝わってくる。それなのに折戸さんは私と小林さんを応援してくれた。それがどういう意味かも私には分かる。


 勇気の出せない私の背中を後押しするように…。


 私が一番幸せになる方法を選んで動く折戸さんに私は深い愛情を感じていた。そして、私は折戸さんに甘え、プロポーズの返事は出来てなかった。ハッキリとした返事がなくてもいいように折戸さんは言葉を選び、それを声に出す。



「折戸さん。ありがとうございました。とっても楽しかったです」


「俺も楽しかった。さてと、そろそろ帰らないと明日の仕事に触るよ。頑張れよ。期待しているから」


 

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