あなたと恋の始め方①
 それにしても何でこんなに私の心臓の音が煩いのだろう。多少の緊張は予想していたけど、緊張し過ぎてどっちの音か分からなくなるほどとは思わなかった。


 小林さんが出たのは…10コールも終わったくらいで、一度掛けなおそうかと思ったくらいの時だった。最初に唸るような声が聞こえて、その後に耳元に聞こえるのはとっても眠そうな起きたばかりという感じ。


『…う〜ん。……みう…ちゃん?』



『はい。おはようございます。6時半です』


 私がそういうと、少しの沈黙の後、小林さんがフッと息を漏らしてからちょっぴり可愛い声が届く。いつもは爽やかで自信に溢れる声も今朝はなりを潜めている。


『俺ってマジで格好悪い。朝、きちんと起きて、美羽ちゃんの電話を待つつもりが、本当に美羽ちゃんの電話で起きた』



 起こすために電話したのに、そんなことを考えていたのかと思うと、ちょっとおかしかった。ベッドの上で頭を抱えながら私の電話を取っているような様子を想像してしまうとつい顔が緩むし、自分が小林さんの役に立てたことを実感する。


『ギリギリまで寝ていて欲しいから、私が電話したんですよ。私が小林さんの役に立っていると思うと嬉しいです』


 私の本当の気持ちだった。毎日仕事が忙しいのも知っているし、昨日は私と遅くまで一緒にいてくれて、私は幸せだった。


『嬉しいのは俺の方だと思うよ。大好きな女の子からモーニングコールなんか贅沢』

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