あなたと恋の始め方①
 私のマンションの前に止まるとこんなに近かったのかと残念に思う。止めてサイドブレーキを掛けた瞬間に別れの時間が来たことを教える。こんな夜中だからこのまま素直に降りないと小林さんに迷惑が掛かる。でも、寂しいと思うのは私の心が小林さんを好きだと言っているから。


 降りなきゃいけないのに。まだ、一緒に居たいと思う気持ちもある。でも、どうしていいかわからない私は自分の恋愛力の無さをひたすら後悔する。でも、自分から頑張らないと何も得られないということも私は知っている。


「このまま帰らないといけないですか?」


 そんな私の言葉に小林さんは心底驚いた顔をした。そして、ニッコリと笑う。その顔がとっても優しくて、また私の胸の奥を苦しくさせる。一層離れがたさを感じた。


「そうだね。今日は遅いから帰って寝た方がいい。でも、今度の土曜日はずっと一緒にいる?美羽ちゃんが望むなら日曜も全部」


 土曜日は初めてのデートの日。高校生のように遊園地で遊ぶ予定。でも、日曜日はまだ何も約束してない。その約束のない一日も小林さんと一緒に居ることが出来る?


「いいんですか?本当に?」


 そんな私の言葉に小林さんは顔を緩める。そして、フッと息を吐いた。サラリと零れた髪が額に陰影を作り、男の人なのに魅惑的に映る。


「そうだね。美羽ちゃんが行きたいところを考えておいて。俺は美羽ちゃんと一緒ならどこでも楽しめる自信がある」

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