あなたと恋の始め方①
 私はとりあえずパソコンのメールの返信をするのを諦めた。今はどう考えてもいい答えは浮かばない気がする。いい答えが浮かぶどころか、地雷を踏んでしまいそう。サラッとメールを返せればいいのに、考え過ぎてしまってそれも出来そうにない。


 とりあえずシャワーと着替えを終わらせてからパソコンの前に座ることにした。でも、時間を置いたからと言ってもキーボードの上で指が止まってしまう。


『折戸さんこんばんは。今度日本に帰国の時に静岡に来てくれるのですね。その時はフランスでの話を聞かせて貰えると嬉しいです。お会いできるのを楽しみにしています』


 考え抜いた挙句にこんなメールしか打てない私は尋問を折戸さんの帰国の時まで持ち越しただけ。別に折戸さんに私と小林さんの恋愛事情を報告する必要はないけど、なんとなく報告しないといけないのかという気になる。とりあえずのメールだけど打ち終わるとホッとした。


 寝ようかと思って、ベッドに横になると、いつもは気にもならない『お料理の本』が目に付く。お母さんが一人暮らしをするときに持たせてくれたものだけど、簡単なものしか作らないので、その『お料理の本』は新品同様だった。ハンバーグは何度も自分で作ったことがあるけど、それ以上に美味しいものを食べて欲しいと思うから本を開く。


 で、本を開いた瞬間。現実に引き戻された。


 私の部屋に小林さんが来る??


 勿論、私の部屋に来るのは初めて。彼氏でもないのに、いきなり誘って迷惑じゃなかっただろうか。作って、小林さんのマンションに届けた方がよかったのかもしれないと…。


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