あなたと恋の始め方①
 研究員の私は今の状態を冷静に分析してみる。


 私と小林さんは本社営業一課で知り合い、次第に一緒に過ごす時間が増え、何度も食事に行ったり、買い物行ったりして、次第に距離を縮めてきた。私が静岡研究所に転属すると同時に私と小林さんの関係は終わるかと思ったけど、小林さんとはメールと電話で繋がりを持ち続け、小林さんが静岡支社に転勤と共に、グッと関係が深まったと思う。


 そして、奇跡的に付き合いだして、今日は明日のことを考えての宿泊。二つの部屋を取っていた小林さんの気持ちを分かっていながら、私は自分の中の我が儘を通した。一緒の部屋で一夜を過ごすという意味は私にも分かっている。目の前には新品の自己主張の強すぎる箱もあるし、この夜を過ごす準備は整ったと思う。


 付き合っている人とホテルに宿泊。


 高校生とか学生ならともかく、私も小林さんもれっきとした社会人だから、抱き合うことに何の障害もない。万が一、私が妊娠したとしてもお互いに責任の取れる状態だと思う。もしも妊娠したら、小林さんは絶対に私に中絶なんかさせないだろう。なのに、こんなに不安になったり、怖がったりするのは私の精神的な幼さからだろう。私に人並みの恋愛経験があったなら、こんなにも緊張しないだろう。


 始めては小林さんがいい。



 小林さんがバスルームから出てくるまでの時間。私はソファの上で身を堅くしたまま時間を過ごしていた。


「落ち着け…私」
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