あなたと恋の始め方①

初めての夜

 結局、映画館で感情移入しすぎて泣いた私はただ、涙を零すというような軽いものではなく、小林さんのシャツの真ん中に大きなシミを残すほど涙を零した。見たのは恋愛映画だったけど、シリアスなストーリーで愛し合う二人は運命の波に飲まれ、何度も何度も擦れ違いを繰り返し、結局は思い続けながらも結ばれることもなく死んでしまうという話だった。


 現代版のロミオとジュリエットとでも言うべき内容に、胸が苦しくなるほど私は泣いた。そんな私に呆れることなく小林さんは背中を擦り、涙を拭いてくれる。映画館のあちこちですすり泣くような声が聞こえるから私の涙も止まらなくなってしまう。


「ごめんなさい。なんか、小林さんのシャツが凄いことになってしまって」


「シャツはいいけど、美羽ちゃんこそ大丈夫?何か飲む?」


「嫌いになりません?」
 

「全く。美羽ちゃんが可愛いと思っただけ。人が居なかったらギュッと抱きしめたい気分」


 抱きしめて欲しいのは私の方。


「私もです」



 映画が終わった時に思いっきり派手に泣いた私は少しの頭痛を感じていた。泣くと頭が痛くなるけど、今日は小林さんが優しいからいつも以上に泣き過ぎたと思う。映画館を出る頃には既に目も腫れているような気もする。そして、映画館の化粧室で自分の顔を見て驚いたのだった。


 化粧が崩れているのはある程度覚悟はしていたけど、目蓋がこんなにも腫れるとも思わなかったし、目は勿論真っ赤。ハンカチで擦りすぎたのか、目元まで真っ赤になっている。こんなに目を腫らしていたらどこにも行けない。でも、帰りたくはなかった。
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