あなたと恋の始め方①
 化粧室から出てきた私を待っていてくれた小林さんは私に駆け寄ると、買ってきたばかりのスポーツ飲料を手渡してくれる。中々、化粧室から出て来ない私を心配していたようで、化粧室から出てきた私をホッとしたような顔で見つめた。


「水分補給しよ。それ飲んで落ち着いたら美羽ちゃんのマンションまで送る。美羽ちゃんも自分の部屋に帰りたいでしょ」


 小林さんの優しさだと分かってはいるけどまだ帰りたくなかった。でも、この顔で小林さんの横を歩くだけでも迷惑を掛けてしまうのも分かっている。そう思うと我が儘は言えなった。グルグル回る気持ちが治まることはなく、言われるがままに私は頷くしかなかった。


「わかりました。自分の部屋に帰ります」


「それとも俺の部屋に来る?そして、今度はお腹の底から笑えそうな映画でもレンタルしてきて見る?」

 
 小林さんの言葉にドキッとしてしまう。小林さんは一人暮らしで、そんな一人暮らしの男の人の部屋に行くとなるとそれなりに覚悟はしないといけないのだろう。一瞬考えたのはこの間の遊園地の夜のやり直しだった。あの時は小林さんが疲れのために寝てしまうというハプニングで流れてしまったけど、付き合いだした大人の恋人同士なら必ず通る道でもある。


「………」


「そんなに心配そうな顔しないでいいよ。純粋に美羽ちゃんと遊びたいと思っているだけだから。一緒に居たいけど、美羽ちゃんが外を歩くのは嫌かもしれないし、かといって、このまま帰るのも寂しいし。だから、涙が乾くまで俺の部屋で笑える映画でも見て、美羽ちゃんが落ち着いたら、またどこかに食事でも行こう」

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