あなたと恋の始め方①
「お久しぶりです。高見主任。折戸さん」


　久しぶりにこの二人が並んでいるのを見ると異世界に迷い込んだような気になってしまう。客観的に見ても素敵過ぎる二人は今日も爽やかな微笑みを浮かべている。本社営業一課での毎日が蘇ってくるような気がしながら二人の姿を見つめる私はこの場をどう乗り切ろうかと思っていた。


　どう考えても私が窮地に追い込まれそうな言葉を零しそうで怖い。研究所は閉鎖された空間だから、妄想も凄い勢いで膨らむ女の子も多く。こんな目の保養としか言いようのない人が現れると気温が一気に駆け上がる。それなのに、高見主任も折戸さんも私に微笑み掛けてくるのだった。


　願わくばサラッとこの時間を乗り過ごしたい。刺激はしないで欲しい。


「久しぶりだね。元気にしているみたいでよかった。坂上さんの研究所での仕事は本社営業一課まで届いている。研究の成果も上々らしいから後からの説明を楽しみにしている」


「俺はお久しぶりじゃないよな。先週会ったし、美羽ちゃんの手作りの料理はとっても美味しかった」


　折戸さんの穏やかでいて人の心を震わせる声は口調は穏やかなのに内容は穏やかどころか爆発物でも投げ込んだようなものだった。周りにいる女の子から一斉に奇声というか布を引っ張って破いたような声が響く。わざと誤解されるような言葉を選ぶ折戸さんは今日も意地悪モードらしい。


　この間は優しかったのに、なんで今日は意地悪モードなのだろう。

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