幽霊とバステト
“片想い”
着いたところはめちゃくちゃ豪邸の前。
「なに、ここ。凄いんですけど…なんかの美術館かなんかなの?」
「西園寺 礼央様の御自宅で御座います。」
「さいおんじ れお?誰それ?」
「西園寺グループの御子息様でございます。」
「西園寺グループ!?ってあの西園寺グループ??」
「はい、資産十数億と言われ今の日本にはなくてはならない製薬会社でございます。」
「SAIONNJI製薬!!」
改めて家を見る。やっぱり凄い!
「で、その御子息がなんの関係があるの?」
「汐梨様のお通夜で泣いていらした男の子がいたでしょう?あの男の子が礼央様です。」
「なんで?私知らない…私のとこが、こんな家に住んでる子と知り合いなわけないし…。」
立派な門の前で家を眺めると背後に一台の、これまた高級そうな車が停まった。
中から男の子が降りて来た。

『あっお通夜の男の子!』
咄嗟に車の影に隠れた。
「礼央様、大丈夫ですか?」
「あぁ…」
「汐梨様のことは残念ですが、一日も早く立ち直ってくださいね。」
男の人と話してる。
「榊…」
「はい。なんでしょう。」
「俺…汐梨ちゃんにもう一度会いたかったんだ。こんな形じゃなく…」
「はい…そうですね…今日はもう、ゆっくりお休みください。」
「うん、おやすみ」
そのまま門が開くと中へと入って行った。

『汐梨ちゃんって言った!?えっ知り合いなの?もう一度会いたかったって会ったことあるってことだよね?』
ダメだ。考えが追いつかない。
「では、お家の中に参りますか?」
「うん!!!」
こんな豪邸初めてだ!
男の子の存在も気になるけど、豪邸の中がどんなのか気になる!!
せっかくだから玄関から入ろう!
ゆっくりと室内に入って行く。

『なに、これ?ここが玄関?私の家並みに広いんですけど!』
「見事な広さですね…」
「まだ玄関ですけど…」
その場所はまだ玄関なのに広く天井は吹抜けで高く開放的な場所だった。
高い天井にはシャンデリアがキラキラしてる。

「凄い…綺麗…」
「汐梨様、礼央様は二階の御自身の部屋におられます。」
「わかった。」
正面にこれまた大きな階段がある。
お姫様が降りてきそうな階段。
階段を上がって行く。
気分はお姫様。
ちょっとウキウキしちゃう。

「ここです。」
二階には扉が二個しかない。
「バステト…二階って部屋、二つだけ?」
「はい、礼央様と、弟の理央様のお部屋の二つです。」
「へぇ弟がいるんだ。」

部屋が開く音がした。
小さな男の子が出てくる。

『あれが理央くん?』
「はい。現在5歳になられたばかりで、礼央様とは13歳差ですね。」
「礼央くんは18歳なんだ…」

男の子がこちらを見た。

「お前誰だ?その黒い猫はなんだ?なんで話してる?」
「えっ私に話しかけてる?」
「お前以外、誰がいる?」
『バステト、なんで理央くんに見えてるの?』
「………。」
「おいっ聞いてるのか?」
「はいっ!!えぇっと…」
『ってか、ものすごく生意気なガキ!!』
「なんだ言ってみろ。」
「でも聞いたらビックリするかも…。」
「俺を誰だと思ってる?!西園寺グループの次男だぞ!驚くもんか!」
「じゃ言うけどね…私幽霊なんだけど…。」
「はっお前バカなのか?なにを非現実的なことを言ってるんだ?」
『はぁぁ?今このガキ鼻で笑った?!』
「お前はちゃんと見えてるじゃないか!幽霊って透けてて、もっと怖いんだろ?」
「それはそうかもしれないけど…本当だもん。」
「わかった!じゃ幽霊ってことでいいよ。俺は物分かりがいいんだ。で、幽霊のお前がこの家になんの用だ?見るからに俺とレベルが違うように見えるが。」
「ちょっとさっきからいい加減にしなさいよ!このクソガキッ!!」
「なっ…お前!!」
「うるさい!お前じゃなくて汐梨!本田汐梨だから!」
「…汐梨。」
「そう、汐梨。だからちゃんと名前で呼びなさいよね!」
「汐梨ってあの汐梨か?」
「知ってるの?」

『自殺したことが広まってるの??』

もう一つの扉が開いた。

「理央?なにをさっきから騒いでる?」
「お兄ちゃん…汐梨ってお兄ちゃんがずっと好きな女の子だよね?」

『えっマジ?ずっと??』

「あぁ理央にも話したことあるもんな…なんだ、榊から聞いたのか?」
「うん、死んじゃったの?」
そう言って理央くんが私を見た。
まだ信じてないみたいだ。
「あぁ…お兄ちゃんの部屋行くか?」
「うん。」
そう言って部屋に戻って行く。
ついて行くか少し迷っていると、理央くんが礼央くんに見えないように、手招きした。
あとをついて行く。

中に入ると、これまたものすごく広い。
圧倒して呆然としてしまう。
入ってすぐに10人が座れそうなソファがある。
壁一面には本棚があって部屋の真ん中に周りより二段高い場所にクイーンサイズのベッドがある。
映画で見るような、大きなベッド。まるで王様みたい。
ソファに座ると話し始めた。
向かい合い座る。

「今日父さんと母さんと3人でお別れしてきたんだ。」

『ってことは、やっぱり知り合いなの?』

「お父さんとお母さんも?」
「あぁもともと汐梨ちゃんのお母さんと、母さんは友達だから。お兄ちゃんが理央ぐらいの時はよく遊んだんだ。」
そう言って一面本棚の一ヶ所を見た。
その視線の先を見に行くと写真が幾つも飾られている。
赤ちゃんの礼央くん。
両親らしき人と写ってる写真。
ピアノを弾く礼央くん。
赤ちゃんを映笑顔で抱っこしてる写真。きっと抱っこしてるのが理央くんかな…。
その中にひときわ目立つ写真立てに飾られている写真がある。
その写真は小さな男の子と小さな女の子がキスをしてる写真。
小さな男の子は礼央くん。
小さな女の子は…私。
とたんに胸が苦しくなった。
なんで私忘れてたんだろう。
記憶が少しずつ蘇る。

「なんでその汐梨ちゃん死んじゃったの?」
理央が聞く。
「辛いことに耐えれなくて自ら死んだらしい…。」
礼央くん目に涙が溢れる。
「お兄ちゃん…」
それを見ている理央も辛そう。
「ダメだな。お兄ちゃん泣き虫だ…」
「お兄ちゃん…汐梨ちゃんに会いたい?」
「あぁ会いたいよ。小学生になる時にアメリカに行っても一日も忘れたことない。大事な存在だったからな。」
「アメリカで好きな女の子はいなかったの?」
「う〜ん、いなかったわけじゃないよ。それなりに恋愛もした。でも汐梨ちゃんじゃないって思っちゃうんだ。変だろ?!」
笑う礼央くんの笑顔は優しい。
「お兄ちゃん…汐梨ちゃんいるよ。」
「えっ?」
「ここにいるよ。お兄ちゃんのすぐそばに。」
そう言うと私のところに走ってきて、私を指さした。
『理央くん!?』

「そうだな、いてくれたら嬉しいな。」
礼央くんは理央くんの優しさからの気遣いとしか思わない。
「理央くん!言っても信じてくれないと、思うんだけど…。」
「お兄ちゃん…ボクの力知ってるよね?」
『無視しないでよぉ』
「あぁ知ってるよ。小さい頃から俺が見えない物見えてたな。」
「じゃ信じてよ!汐梨ちゃんここにいるんだ!」
「理央!!いい加減にしてくれ!優しさもそこまでだ。それ以上はただの残酷になる。」
礼央くんは立ち上がり理央くんの手引いてソファに戻る。
「汐梨!どうにかしてよ!お兄ちゃんに汐梨のこと見せてあげて!」
急に振り返ると私に泣きながら訴えてくる。
「理央!頼むから、お兄ちゃんを困らせるなよ。」
そう言って頭を抱えて座ってしまった。
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