東京血風録
第2章  明鏡止水なること

1 帯同する者たち

 




 彼の敗北の報は、彼の地の彼らにまで届いた。

 京都府京都市伏見区。
 とあるお寺の1室に1組の男女が向かい合わせで座っている。 
 正座である。

 その距離、1間。

「この度の敗戦どう思われる?」
 男が訊ねた。
 男は濃紺の作務衣を着て、小さめの四角いフレームの眼鏡を掛けている。

「どうもこうも現当主が挨拶にも来ない上に敗戦の報だけもらっても・・・な」
 女が答えた。白い着物に赤い袴、巫女である。
「困る?」
 男が意味深な笑みを浮かべながら返した。
「困るであろう?メガネはどう思っている?」
 女はうっすら頬を赤らめながら問うた。
「コラコラ、メガネはやめなさい」
 全く感情の入ってない男の返事。

 男の齢、18才くらい。
 落ち着いた感じの好青年だ。
 少し冷たさを感じる、切れ長の眼が印象的だ。
 長めの黒髪は後ろへ流しているが、前髪が幾束かおでこへ掛かっている。

 
 女の齢、男と同じか少し年下か。
 くるりとした、大きな眼が特徴的だ。
 だが、彼女の印象を際立たせているのは、その髪型である。
 栗色の明るいショートボブである。
 その愛くるしい顔と実に似合っている。


「何にせよ、将たる者が簡単に敗戦するなど以ての外だ」
 男の言葉に、
「私は将だなんて認めてないからね」
女が即答する。



「先ずは、挨拶がてら東京へ行きますか。面と向かって話さなければ気が済まん。一緒に行ってくれるね?」
 男の問いかけに、女は苦虫を潰したような顔のまま、
「仕方あるまい」
と、返した。

 その後、妙な間が空き、女が頬を赤らめながら、
「一緒に行こうとそんなに言うのであればな」
と、続けたのであるが、男は何やら思案しているようで、返事はなかった。
 だが、女のほうも下を向いてモジモジしており、そんなことにも気が付いておらんかった。
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