東京血風録
 



 剣鬼について述べておこう。

 儂ら、剣鬼は実体がない。
 浮遊霊みたいなもんじゃ。
 剣鬼としての生まれとしては、往々にして多々ある。
 世に未練がある場合もあれば、人や物に執着し過ぎる場合もある。
 
 剣鬼としての始まりは、剣や刀が造られるその場に立ち会う所からじゃ。
 そっと、見守っておるわけだが、この剣じゃと思った時に、契約を結ぶ。
 その剣に住まう主となるのだ。
 その剣を守ることもあれば、剣の持ち主と調和し更なる技・技法を使えるようにする。
 そんなこんなで、歴史に勇躍する場合もあるわけじゃ。

 儂の場合、真っ黒な木刀に惹かれたわけじゃ。
 すんなり、木刀の守護霊になると不思議なことが起こった。
 木刀を作っておった刀師が、おもむろにのみを取ったかと思うと、黒い木刀の柄の部分に何かを彫り始めたのである。
 それは文字だった。漢字。
 刀師が一心不乱に彫りあげた言葉は、
(伊號丸)と、書いてあった。
 そこで、儂の名前が決まったわけだ。
 このようなケースは聞いたことがない。
 数ある剣鬼ぬ中でも、儂だけではないだろうか。
 刀師は、儂の存在か気配に気付いたのかそのような行動にでた。
 満足気に微笑む男の顔を儂は忘れはしない。


 そして儂は、剣鬼・伊號丸となった。

 
 そなたら、身の回りに“丸”の付いた刀や
剣はないかえ?もし、あったとしたらそれは剣鬼かも知れないので、ご注意あれ。
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