月に一度のシンデレラ


母さんは ふり返らずにスタスタ歩いていった。おれと歩くときのゆっくりした歩き方とはぜんぜんちがう。後ろすがたが、まるでちがう女の人みたいに見えた。


駅につくころには、おれは汗びっしょりになっていた。ああ、コートなんか着てくるんじゃなかった。母さんは改札の中に入って行く。おれもパスモを「ピッ」っとして後を追いかけた。


井の頭線に乗っても、母さんはおれに気づくようすがない。ドアの近くに立ってじっと外を見てる。おれは少し はなれたところで、銀色の手すりにつかまって母さんを見ていた。見つかりたくない。でも早く見つけてほしいような気もした。


「しぶやー。渋谷に到着です」

電車のドアが開くと、たくさんの人がホームに降りる。おれも、大人たちにつぶされそうになりながら外に出た。

母さんを見失わないように必死で追いかけた。
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