月に一度のシンデレラ


出会ったのは半年前。10月の渋谷。
私がマリカに変身して月に一度、夜の散歩をするようになってから一年目のことだった。

彼は寂しい目をして宮益坂を歩いてた。声をかけたのは私だ。
黒のスーツが小憎らしいほど似合っていたけど、颯爽とはしていなかった。後ろ姿に哀愁が漂っていたんだ。

「逃せない」。何故かわからないけどそう思った。自分でもびっくりするほど、強く。
この人の人生に関わりたい。関わらないといけない。そう思ったの。
ノリに言ったら笑われたけどね。




「どこ行くんですかぁ?」

断られるかな、嫌な顔をされるかな。そんなことを考える余裕なんて無かった。ただもう、掴まえたくて必死だったんだ。大股で歩く彼に小走りで追いついて腕を掴んだ。彼は驚いた顔をして足を止めた。
その時のあたしは、白いミニのワンピースから潔く足を出していた。その足をじっと見てから、彼は言った。

「元気だね。寒くない?」

「寒くない。ぜぇんぜん寒くない!」

彼の腕にぶら下がるように抱きついた。甘えるような声と表情で言う。この技に逆らえる男があんまり多くはないってことを、あたしは良く知っている。

「お茶しましょうよ、ねっ」
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