溺愛クルーズ~偽フィアンセは英国紳士!?~

「なんだ?」
エレベータでようやく降ろされ、彼のコートをワンピースのように着る私に、蕩ける笑顔をむけてくれた。

「お見苦しい所を見せてしまいその、お恥ずかしいのですが、ありがとうございました。私、次の寄港とかで降ろしてください」

冷静に……はまだなりたくない。
泣きだしそうとかではなく、どうしてあんな奴を8年も思っていたのかと、ポロポロ剥がれ落ちていく気持ちに心が追いついていないから。
ここまで一気に心が冷えてしまうとは思わなかった。
でも一つだけ言えるのは、
彼にとても迷惑をかけてしまっているということだけ。

「何故?」
「こんな、ちんちくりんな私なんか、その、婚約者とか間違えられるのは不本意だと思います」

エレベータの壁に貼り付けられた鏡からは、真っ赤なウサギみたいな充血し泣きはらした目と、綺麗に巻いていた髪がめちゃくちゃになって、アイラインも剥がれた無様な姿が映っている。

可愛くない。
酷い顔だ。
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