怪盗ダイアモンド


「アゲハ嬢!」

阿弓が血相を変えて私のところに行こうとした。

「動くな」

「うわっ?!」

瀬川さんがナイフを阿弓の首筋に当てて、それを阻止する。

いくら喧嘩の強い阿弓でも、刃物には勝てない。

「そうか、兄弟で共犯だったのか……」

今更ながら、音遠くんが呟いた。

「ひひっ、悪ぃな日ノ宮クン。ちょっくら逃げるのにキミ達が邪魔でねェ」

館長さん(偽)の今までの丁寧口調は周りを油断させる為だったみたいだ。

ニヤニヤと品のない口元からは、さっきまでと正反対の口調ばかり出てくる。

さっき私を撃った拳銃を、玩具みたいにくるくる回して楽しんでる彼は、私達に話しかけてくれた優しい人と同一人物だと思えなかった。

「ごめんねー亜希乃チャン。警部の娘であるキミと付き合うふりしてりゃ、容疑者に入んないと思ったんだけどヨ」

豹変した彼氏に驚きを隠せない亜希乃に、瀬川さんは煽るように嗤う。

館長さん(偽)はそのまま絵画を盗ると、兄と二人で出入口に後ずさる。

「フランス人のオネーチャン、悪いけど、防犯装置はオレが館長特権で切っちゃったんでね、警察は来ないよ」

「なっ……」

そういえば、三十分経ってるのに、警察は全然来ない。

「オレらがここを出てから三十分は、どこにも連絡しないようにネ。監視カメラあるから、連絡とってればすぐ分かっちゃうよー」

「もし連絡してたら、この娘殺しちゃうからね」

「……チッ」

阿弓は瀬川さんの腕の中で、抵抗できずに睨んでる。

< 69 / 80 >

この作品をシェア

pagetop