君と花を愛でながら


一瀬さんの目が店内を一周して、ほうっと息を吐く。
両手を組み合わせて膝の上に置き、目が閉じられた。



「卒業式の次の日には、来てくれるものかと」

「え……」



まさか……待っていてくれたのだろうか。
驚いて見開く視界の先で、一瀬さんがゆったりと穏やかに笑い、再び目を開けた。



「そろそろあなたと、こうして花でも愛でながら
 お茶がしたいと思っていました」



漂う珈琲の香りの中で、きゅっと抱きしめたチューリップの花束が腕の中で存在を主張する。


涙を堪えて震える唇が、上手く言葉を紡いでくれない。
だけど私はまだ、大切なことを言ってない。


俯いて、真っ赤なチューリップを両手でしっかりと持ち直す。
ゆらゆら揺れる赤い花びらにぽたぽたと落ちた私の涙ごと、彼の方へ差し出して。


長い長い冬の間、温め続けた想いを告げる。


どうかこの赤い花を
私の想いと一緒に受け取って。



「あなたが、好きです」








最終話 「恋するチューリップ」

End.

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