君と花を愛でながら
毎日この店に通って、優しい空気に触れて自分に出来ることを見つけて……姉や悠くんに依存していた心が少しずつ自然に、離れることが出来ているんだ。


「ありがとうございます。何気に優しいですよね片山さんって」


銀のトレーに水の入ったグラスを乗せて、ふふ、と笑ってみせると、片山さんはちょっと頬を染めて。


「俺は女の子にはいつも優しいの」
と、照れ隠し丸出しの発言をした。


「はい、そうでした。いつも優しいですよね」


初めて片山さんを揶揄できる立場に立ったとちょっぴり優越感を抱きながら水のグラスを持っていこうと踵を返す。
すると、悠くんが二人に手を振ってテーブルを離れるところだった。


「あれ? 悠くん、帰っちゃうの?」


少し大きめに声が届くように尋ねると、悠くんはこちらを向いて私にも手を振ってくれた。


「姿が見えたから寄っただけ。ごめんね邪魔して」


そう言って、足早にお店を出て行った。


「なんだ。一緒にご飯でも食べに行くのかと思った」


グラスの乗ったトレーをカウンターに戻しながら、私は少しほっとしたことは否めない。


あの三人の構図が少し前の私達三人に見えて、私と同じ立ち位置になる苑ちゃんの気持ちを想うと少し胸が痛かった。もう一度、悠くんの去った二人のテーブルに目を向ける。


私はそこで、まるで映画のワンシーンのような一瞬に目を奪われた。
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