こっちを向いてよ、ダーリン!
単なる三人称じゃない、“彼”という言葉ひとつの破壊力を思い知らされた。
「それが何か……?」
「ううん、何でもないの」
何でもないと言う割には、どこか勝ち誇った言い方。
痛々しく見えるはずのギプスが、真奈美さんの武器のようにさえ見えた。
「私たちのこと、彼から聞いたんでしょう?」
チラリと投げ掛けた視線の先には、長い髪を左肩の上で緩く束ね、怪我人とは思えないほど小綺麗にした真奈美さんが微笑んでいた。
反論してみたところで、自分が惨めになるだけ。
私が真奈美さんに負けた事実は、認めなければならない。
「……圭くんを宜しくお願いします」
こんなこと、口にしたくはなかった。