モテKingのターゲット
不確かな想い


彼女が噂を煽る行動に、あれ程の事が詰まっていたなんて思いもしなかった。


俺は安易に『男に裏切られた』とか、『父親に捨てられたから』とか。

どこにでもよくある話にくらいしか、考えも及ばなくて……。


今日食べる物さえ困るほど、貧窮していた事なんて想像もつかなくて……。

だって、うちはパン屋。

いつでも食べ物が手に取れる場所にあった。

お金にも困った事が無いし、友達に裏切られた事も無い。



それに寝る所にも困らず、親の涙なんて1度も見た事が無い。


弁護士や医者の仕事をしている父親を持つ友達が羨ましかったり。

専業主婦の母親を持つ友達が羨ましかった。


母親が作るいつでも手の込んだ愛情たっぷりの食卓と、『ただいま』とネクタイを緩める父親像を何度夢みた事か。


けれど、そんな俺の儚い夢は、彼女にとったら贅沢以外の何物でもないのだろう。



彼女の心の声を聞いてからというもの、俺はこれまでの自分の生き方が恥ずかしく思うようになっていた。



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