月下美人が堕ちた朝

彼の返事を聞き、あたしは黙って電話を切った。

だから大人は嫌なんだ。

痛みを痛みと感じることを忘れてしまっているから。

タドコロはきっと、他人の痛みなんかも分からないのだろう。

スバルの実家の住所を書いたメモ用紙を眺める。

あたしは、スバルに逢いに行く資格なんてあるのだろうか。

もう恋人ではないのだ。

それなら客として付き合っていたマナミの方が、よっぽど関係が親密のような気がした。

もう少しだけ、頭を冷やそう。

ベッドの上に蹲り、バッグからカズヤに借りた教科書をペラペラ捲る。

印がつけられているページには「境界性人格障害」の文字。

黄色の蛍光ペンで沢山のアンダーラインが引いてある。

主な症状…。

「些細なことで暴力的になる」

「被害妄想や見捨てられる不安を抱えている」

「ストレスが溜ると自傷行為をする恐れがある」
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