明日を迎えられない少女は何を望んでいたのだろうか。
 明香は入学時からこの学校の生徒だが、芽衣は今年の五月に父親の仕事の都合で引っ越してきたのだ。

 転校生として紹介された彼女は一躍注目を浴び、ほかのクラスの友達も、芽衣のことを話題に出すことが少なからずあった。

 副担任の佐田昌枝という女の先生も、芽衣をかわいいと絶賛していた。

 だが、それらの話題は明香の前では禁句だったのだ。

 彼女に直接言わなくても、彼女が話を聞けそうな場所で芽衣の話題を出せば、眉間にしわを寄せ、不快感をあらわにする。

 そんな明香が芽衣のことを悪く言っているのを何度か見たことがあった。

 家が貧乏だの、国語の点数が悪いだの、彼女の家庭環境や成績に言及するものもあった。

 かわいくないと彼女の容姿を非難することもあった。

 ぶりっ子だと性格に文句を言っていることもあれば、少し肌が荒れると、不潔だとののしっていることもあった。

 明香の口にする言葉は、聞いていて心地の良いものではなかったが、あくまで影で言っていたことだった。

 だから、みな、聞き流していたのだろう。


 今まで、彼女はあくまで表立って芽衣を非難することはなかった。

 だが、彼女の態度が一変し、今のような直接危害を加えるような状況に至る。

 その原因ははっきりしない。だが、私は松下先輩という、近くの公立高校に通っている先輩なのではないかと考えていた。
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