明日を迎えられない少女は何を望んでいたのだろうか。
　それは明香が芽衣を非難するときには、かなりの頻度で彼の名前が出てくることだ。

　彼女が彼を先輩と呼ぶのは、同じ中学に通っていたからのようで、今でも彼を先輩だと呼ぶ。

　松下先輩は運動神経が抜群によく、この近くの公立高校に通っている。

　夏休みで引退したものの、陸上部に所属しており、県の大会で幾度となく入賞する程の実力の持ち主だ。

　百七十後半の身長に整った顔立ちは彼の通う高校だけでなく、近くにあるこの高校でも噂になるほどの人気だった。


　私も顔は見たことがある。目鼻立ちがはっきりとし、掘りが深い。
　二重の瞳が彼を優しく見せていた。
　その人柄も穏やかで、誰に対しても平等に接するともっぱらの評判だ。

　彼女がいないらしいことが、彼の人気をより確実なものにしていた。

　明香は松下先輩のことが好きだったのだ。
　いつからかはわからないが、中一のときから彼を思っていると聞いたことがある。


　明香は我が強い性格なので、松下先輩を好きな子がいるとしれば、
　こうやって敵意を丸出しにしたことも少なくない。


　今まで幾度となく、松下先輩に話しかける人を可愛くない、根拠がないのに性格が悪いと罵倒していたようだ。

　彼にいいつけない相手には、直接的に、もしくは陰で文句を言うということを幾度となく繰り返していたのだから。

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