明日を迎えられない少女は何を望んでいたのだろうか。
 私が立ち上がるのと、明香が芽衣の携帯を蹴るのはほぼ同時だったと思う。

 私は転がってきた携帯を拾うと、大粒の涙を流している芽衣に差し出した。

 芽衣は驚いたように私を見ている。

 私は芽衣とも明香とも仲が良いわけではない。

 ただ、学級委員をしているため、クラスメイトの大半とそつなく言葉を交わすことができる。

 友人はそんなに多くないし、目の前の二人ともあいさつ程度の言葉しか交わしたことがない。

 そんな私が二人の間に割って入るなど、想像外のことだったのだろうか。

 クラス中の視線が私の体に突き刺さる。

「古賀さんは毎日、そういうことして、楽しいの?」

「楽しい、楽しくないじゃなくて、芽衣ちゃんのためにやってあげているの。このままだと社会に出て大変だと思ってね。教育をしているのよ」

「教育ね。古賀さんにとっては教育と犯罪ってイコールなんだ。これって暴行とかに当たるんじゃないの? 警察に言えば捕まるんじゃないの? あなたが」

 その言葉に明香の顔が真っ赤に染まる。

「部外者は黙っていなさいよ」

「私、学級委員だもん。そもそもクラスメイトだから、部外者と言われるのは心外よ」

 きわめて冷静に言葉を発しながらも、私の心臓はドキドキしていた。
 明日からはもう学校に行けなくなるかもしれない。

「学級委員なんて雑用係じゃない。何を偉そうに」

 明香は鼻で笑う。

 彼女は全くやめる気がないようだった。

「優等生の学級委員様はお勉強だけしていたらいいのよ」
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