明日を迎えられない少女は何を望んでいたのだろうか。
「私いい番号知っているのよ。せっかくだから友達のいない芽衣ちゃんに教えてあげる」

　生き生きとした瞳を見て、彼女がまた良からぬことを考えているのが分かる。

「どんくさい芽衣ちゃんのために私がわざわざ入れてあげるの。番号入力完了。はい、携帯返してあげる」

　明香の手から携帯電話が滑り落ち、床に転がった。
　その音は教室中に響きわたった。
　
「あっ、ごっめーん。手が滑ったみたい」

　明香の勝ち誇った笑みを見ていると罪悪感が全くないようだった。

「何の番号を入れたの？」

　興味を持って目を輝かせて問いかけたのは、加古川絵里子だ。明香は得意げに胸を張る。

「葬儀屋さん。十件も教えてあげるから、選び放題だね」

「酷い」

　芽衣の大きな瞳から涙が溢れていた。

「シャッターチャンス」

　その言葉と共に、亜紀子が芽衣の姿を携帯のカメラで撮影していた。

　私は拳を握る。

　ここで止めたら、私も巻き込まれるんだろうか。
　私の家は普通の家で、明香の家に対抗できる何かなんて到底ない。

　
　でも、これ以上、自分勝手な理由で彼女らに傷つけられる芽衣を見たくはなかったのだ。
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