甘やかな螺旋のゆりかご


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白雪姫のようだと、実は今もその印象は変わることがない。


産まれた瞬間から、いや、母親だった人のお腹に宿っていることを知ったときから、妹は僕の特別で、生きる理由と活力源だった。抵抗の術を持たない妹を産まれる前から守ることに必死な三歳児に、母親だった人は忌々しいといった表情を惜し気もなく向けていた。


僕とあまり似ていない、雪のような白肌に真っ赤な頬っぺた、黒の比率が多いくりくりとした瞳、ぷよぷよとした指を曲げては伸ばしを繰り返す様子に、漠然としたお姫さま像は、ある日予防接種待ちのどこかで誰かに読み聞かせてもらった白雪姫で固定された。


意地悪な継母から、毒リンゴから姫さまを守る。小人や王子よりも立派なものになろうという意志は、毎日の目的となった。母親から与えてもらう愛情はなく、自分の存在が幽霊のようだった毎日は、妹のおかげで生きていてもいい意味をもった。


お姫さまな愛らしい妹が僕にだけすり寄ってくる。必要としてくれる。僕がいないと笑顔がなくなる。言葉を、生活を僕から学ぼうとする妹に、僕はひたすらに夢中で、その真っ赤で瑞々しい頬っぺたを保つことに使命感を燃やしていた。


それらは、勿論妹の為でもあったけど、僕の自己満足もあったことは拭えない。感情の乏しかった僕と妹が、互いに必要とし、過ごす時間。妹の表情がそのときだけ、笑みにほころぶのが嬉しかった。――そして、黒の比率の多いくりくりとした瞳の中に映る僕も、このときだけは人間的表情を取り戻せていることを確認すると、ここに存在を赦されているのだと安心出来た。


依存、だったのは認める。けどそれがなければ僕も妹も健康ではいられなかった。身体も心も。


だから、それらによって生じる歪みは、それはそれで受け入れようと、妹が日常でも笑えるようになった新しい家族との生活を、僕は決して波風を立てないと誓った。


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