甘やかな螺旋のゆりかご


両親がまだ離婚していなかった頃に、僕は眠ったまま尋常ではなく目を覚まさないことが多かったらしい。自覚はなく、けど覚めきらない脳みそはいつも蜃気楼の中にいる感じはあった。そして、僕にしがみつき泣き声を漏らす妹の姿。


症状は改善していったが、新しい家族との生活が始まると、僕は今度は、眠れなくなってしまった。今の家族が嫌なわけではない。義母と下の妹を引き止めたのは僕で、皆が望んだ家族の形だ。眠れない原因は不明で、ばれてしまった妹以外には秘密にした。歪みは、放っておいてもやり過ごせるものだと判断した。



放っておいてもやり過ごせるものだった眠れぬ夜に、多少の不具合を感じ始めた頃、妹の手があれば解決できることを知る。理由は知らない。


いつしか、手に加えて、その声でも僕を眠りへと導いてくれるようになった妹は言う。蜘蛛の糸のようなものだと。ああそうかと、漠然と腑に落ちた。幽霊だった僕を人間に繋ぎ止めてくれたのも、今、幸せな生活に馴染むよう安らかにさせてくれるのも、確かに妹のおかげで。それはまさしく蜘蛛の糸。


助けるのも、助けられるのも、僕は妹からでしか得られないのだ。成長し、別々の部屋になった僕と妹。眠れぬ夜を敏感に感じとり、深夜僕の部屋に滑り込んでくる妹に、僕は情けなくも手を取られる。


どうしてだろうね、情けないね、と僕はこの状況に顔を歪めて自嘲する。いい加減高校生にも大学生にもなってまだ続くそれに、妹を引きずり込んでしまったことを悔やむ。


どうしてだろうね、もっと頑張る、と妹は綺麗な顔を歪めて己を叱咤する。もう、いてくれるだけで充分なのにと伝える度に、妹は壮絶に綺麗な顔をして泣くのを堪え、そしてはにかむ。


幼い頃を一心同体のように共に過ごし乗り越えてきた妹とは、成長するにつれ、そこかしこの兄妹と大差ないと思われるくらいには自立していったが、他とは違う繋がりを絶つことはしていなかった。妹が離れるまではと、僕はその揺りかごに甘えていた。


妹が、僕の目に見える範囲で幸せでいることが幸せだった。


妹が、僕の幸せの象徴で、幸せを形成してくれる最たる存在だった。


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