甘やかな螺旋のゆりかご


お嬢さんが颯爽と帰っていくと、おもむろに娘が俺に詰め寄ってきた。さっき小遣いは渡したし何だ? 一緒に暮らしてないからか、娘は女子高生にしては、こうして近寄ってきてくれることもしばしば。わりと嬉しかったりもする。


心でデレデレとしながら表情は崩さないお父さんは、そういえば何故大人な服を見たいのだと追求せねばと思い付く。大人な彼氏とかが出来てその男の為とかなら買い物に密着だなと決意をしたところ、娘から先に攻撃を受けてしまった。


「ねぇ、もうさ、早いとこ彩音ちゃんにプロポーズしちゃいなよ~」


「はあっっっ!?」


しかもどんな爆弾だ。訳がわからない。帰ったあとで良かった。居たら俺、絶対殺される。俺言ってないのに。


どうやら娘は、お嬢さんを相当気に入っていて、加えて俺の独身生活をとてつもなく不憫に感じていて、俺とお嬢さんの相性は悪くないと思っているらしい。


「もうさ、今はママと復縁してほしいなんて思ってないし」


「それは無理だ。人間的には凄い人だけどな、ママは。もう尊敬だけだ」


「わかってる。……もし、私の養育費が障害なら要らないよ? ママの稼ぎだけで潤った我が家だし、パパのほうが貧乏だし」


「……敏腕経営者だもんな」


元妻は実家のガラス工芸の経営者だ。弟が職人で、役割はいい具合に分担されて順調らしい。


「子ども作るなら、パパもういい歳だよ? 私妹欲しい」


「それはママに頼みなさい」


「それはそれ。彩音ちゃんメッチャ美人だしパパもまだそこそこだから、その遺伝子の融合が見たいの~。――彩音ちゃん、美人だし優しいし根性座ってるし料理もお菓子も作るの上手だし。早く意識させとかないと獲られるからねっ」


「遺伝子とか融合とか……娘からききたくないわあ……」


項垂れる俺の横では、楽しんでいるようにも見える愛娘。恋愛脳の女子高生は、それを最良だと疑いもせず、胸を張って誇らしげだった。


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