甘やかな螺旋のゆりかご


――……




『わたしは、――のことが好きよ。だから……』




あれは、何年前のことだろう。


そんな感情であるはずはないのだ。あってはいけない。


そんな倫理から外れたこと……。




離れていってほしくない。


眠れぬ夜には、居てくれないと僕は……。


いつものようにその手で優しく癒してほしい。


もうずっと、小さな頃から、彼女が産まれたときから、僕には彼女でしか救われないことが多すぎて。


可能ならずっと。一生。


けれど、そんなことは到底不可能で。


とんだ独占欲だ。己のためだけの。




『わたしは、――のことが好きよ。だから……』




確かに、あのとき彼女は僕にそう言った。


けれどそこにそんな意味が含まれているはずがないのに…………一瞬でも、倫理から外れて幸せに浸った自分。当時を鮮明に思い出してしまった。


ただただ、すがりたくなった情けない男にそんなことあるはずが……いや違う。僕でなんかあるはずはない。


親愛の、情だ。ただの。


越えてはいけないこと。考えるほうがおかしい。




好きと言われた記憶をこんなに大切に仕舞い込んでしまう僕は、こんなところまで欠陥品なのか……。


願うようになりたい。彼女の本当の幸せだけを。


手放したくないなんて、都合のいいことは、もう考えなくてもいいようになりたい。


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