甘やかな螺旋のゆりかご


……――


携帯電話が震えて同僚からのメッセージが届く。上手く動いてくれない指先を腕全体で誘導し、返信を送った。


収まっている席の場所と、重要事項を添えて。




店のすぐ外からの連絡だったのか、ほどなくして同僚は僕の向かいの席に疲れた様子で腰を落ち着けた。


「ちょ~疲れた~」


直ぐ様とりあえずビールを注文し、残業の進捗を訊ねる。


「大丈夫だったか?」


「ああ、向こうが発注ミスって在庫が足りなくなったんだと。で、必死にかき集めてる最中で、明日の朝イチで納品して解決。恩は売っといてなんぼだもんな」


「そうか。お疲れ」


「ああ。――てか、なんでさっきから小声? 名前呼びながら来んなとか、修羅場系の女でもいんの? 珍しい。俺、おまえのそんなの見んの初めてだわ」


運ばれてきたビールで軽く乾杯をしながら楽しそうに訊ねてくる同僚に、僕は小声で打ち明ける。


「隣……」


「おっ、美人二人だったぞ。俺手を振ってきたとこ。どっちどっち?」


「……お前何処でも発揮するその癖やめろよ」


「紹介してくれてもいいんだぜ?」


「だれがお前なんかに。……………………妹だよ。多分、より美人なほう」




納得、してもらえた。同僚にも妹がいて、そりゃあ呑みの席で顔を合わすのは嫌かろうと。


そんな理由ではないが、それを話せるはずもなく。




誰かに打ち明けたことなど、あるはずがない。明白な、けれども脳内から出ていってくれない勘違いだ。





好物の揚げ出し豆腐の繊細な出汁の風味や、枝豆のしょっぱいくらいの塩味を感じられることなく、機械的に腹は満たされていく。確かに空腹だったはずのそこは、食べ始める前からそうではなくなっていた。


ただただ、時は過ぎていくばかり。


毎分毎分三万の細胞が作り替えられているというのに、僕はまた、人知れず、相変わらず、狂っていくのか……………………。







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