元教え子は現上司
 ピンポーン。

 インタフォンが鳴って、碧はゆっくりと深呼吸をした。指先が小刻みに動く。あ、震えてる、と遅れて認識した。

「碧」
 暁が碧を引き寄せて、腰を抱く。片手を碧の頬にあてて、素早くキスをした。面食らって、慌てて身を引く。
「なにするの」
 暁はニヤッと笑って言った。
「大丈夫。俺がいるから」
「……暁」
 肩の力が抜けるのを感じる。通りにくかった酸素が、ゆっくり正しく、体に入っていく。

 暁は碧の手を取ると、自分の指と碧の指を絡めた。しっかりと握られた手の先はお互い冷たくて、そうか、暁もやっぱり緊張してるんだと知る。

 お互い万能でも強くもない。だから一緒にいる意味がある。そのことが嬉しくて、愛しかった。

 二人は玄関まで向かうと、扉を開けた。
 数時間前に降り出した雨が、ひやりとした空気を運ぶ。
 
 小川が立っていた。
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