エリート室長の甘い素顔
「だって、見て回る時間も限られてるし、もう少し数を絞らないと」

「俺は正直、まったくこだわりないんだけどなぁ……」

 悠里は恨めしそうな顔をして大谷を見つめ返す。

 おそらくその言葉に嘘はなく、大谷の住んでいるアパートを見るに、たとえどこに決めたとしても「今よりは断然いい」はずなのだ。

 でも悠里からすると、せっかく二人で暮らす新居を一人で決めるのは寂しい。
 それにどうでもいいと思われている感じがして、なんとなく嫌だった。

 頭では、彼がそんな風に思ったりしてないことを、わかってはいても。

「現物は一緒に見に行くから、そんな顔すんな」

 そう言いながら大谷は、悠里の鼻をきゅっと摘まんだ。


 社屋に戻りエレベーターホールに向かう。
 するとホールで待ち構えていたように、河野と桑名が駆け寄ってきた。

「大谷さーん!」

「松村ちゃん、おめでとー!」

 悠里は桑名の大きな声に目を丸くして、つい周囲を窺ってしまう。

「てめぇは声デカいんだよっ」

 大谷がそう言いながら桑名の頭を小突く。
 当の桑名は、大谷に構われてとても嬉しそうだ。


「も~、無事にくっついてくれて一安心」

「一時はどうなることかと思った」

 二人が結婚するという話が社内を巡った時、この二人は真っ先に大谷の元へお祝いを言いに駆け込んできたらしい。

 その時悠里はちょうど席を外していて、実際に入籍してからこの二人と顔を合わせるのは初めてだった。

「おめでとう、松村さん」

「あ、もう松村ちゃんじゃなくて、大谷ちゃんか?」

 桑名の言葉に、大谷と河野が反応する。

「お、そうだな」

「これから呼び方どうしよ。なんかいいのないかな」

 悠里は軽く肩をすくめて言った。

「仕事は旧姓のままでやっていきますから」

 すると、大谷も含めた三人が揃って目を丸くする。

「あ?」

「そうなの?」

「なんで?」

 三人の反応に、むしろ悠里が首を傾げた。

(……なんでって、なんで?)

 別にそんな珍しいことじゃないのに――


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