エリート室長の甘い素顔
04
 目の前のテーブルに置かれたコーヒーを見つめる。

 香ばしい香りが漂い、悠里はそれにゆっくりと手を伸ばした。

(そういえば……)

 ふと、思い出す。

 大谷は、コーヒーが飲めないのだ。


 カップを慎重に持ち上げながら、悠里は安藤の質問について考える。

 ――私の好きな人の話が聞きたい、とか。

 なぜこの人は、そんなことを知ろうとするのだろう?

 得することは何もないと思うのだが――


「相手は、職場の上司です。バツイチで小学生の娘さんがいます」

 そう言うと、安藤は軽く目を瞬かせた。

「独身なら何も問題ないでしょう? なぜ片思いなの?」


(うっ……)

 痛いところを突いてくる。

 そうなのだ。
 ウジウジしてるくらいなら、とっとと告白してスッキリすればいいのだ。


「ヘタレなんです、単に……」

 大きくため息を吐いてそう言うと、彼は首を傾げた。

「彼が? あなたのこと受け止めてくれないの?」

(いやいやいやっ)

 悠里は思いきり首を横に振った。

「私です、私! 今の関係を変える勇気がないんです」


 安藤はきょとんとしてしばらく考え込んだ後、少しだけ楽しげな笑みを浮かべた。

「話に聞いていた印象だと、あなたならとっとと告白して、ダメならさっさと次に行きそうな気がしてたんだけど……」

(はい?)

 一体彼にどんな話をしたんだ、雪枝おばさまよっ!

< 23 / 117 >

この作品をシェア

pagetop