エリート室長の甘い素顔
05
「あなたが断るつもりでここへ来たことはわかりました。でも、もう少しだけ……僕にもチャンスをいただけませんか」


 安藤の言葉に、悠里は考え込んだ。

(でも、お見合いの相手でしょう?)

 普通なら見合いを断らないというのは、結婚前提の交際をスタートさせることと同じなんじゃ――?


 すると、安藤はさらにこう言い募った。

「期限を設けてもいい。あなたが彼に告白するまで、というのはどうです?」


(は?)

 悠里が驚きに目を剥くと、彼は微笑みながらも真剣な目をしてこちらを見返した。


「告白でもしない限り、結婚に踏ん切りなんかつかないでしょう? この際、彼と僕を徹底的に比較してみてください。あなたはご自分にとって良いと思うほうを選べばいい」

 安藤は軽く身を乗り出すと、こちらをじっと見つめた。

「『人並みに結婚する気はある』と、おっしゃいましたよね?」

 ニッコリと微笑まれ、頬が引きつったのが自分でもわかった。

(確かに言ったけど……)

 キツネやタヌキの安藤に、問答で勝てる気はしない。

 いずれは結婚したいという気持ちはある。
 それは決して嘘ではない。

 だがそれは――

「恋人として付き合う必要はありません。僕という人間のことを知ってもらえれば……。そうですね、男友だち程度に考えてくれたらいいです」

 悠里はニッコリと笑った安藤を見て思った。

 この微塵も隙のないイケメンが、男友だち――?


 戸惑っていたら、安藤はこちらに手をスッと差し出してきた。


「では、そういうことでよろしく」


 半ば強引に手を握られ、結局そのまま押しきられて、連絡先を交換した。

< 26 / 117 >

この作品をシェア

pagetop