エリート室長の甘い素顔
「正直、邪魔くさいですね。家事でもなんでも、僕は自分で出来ますから」


(わぁお)

 このスペックで、家のことまで完璧なの?

 悠里はまた、開いた口が塞がらなかった。


「僕の仕事は、やはり少し特殊なものです。有事の際は家族を置き去りにしても、国のために働かなくてはなりません。中には家族を優先する同僚もいるでしょうが、僕の価値観ではそれは違う」


(国のって……そうか、彼は国家公務員だ)

 悠里は釣書の中身を再び思い出した。

「それを理解して、家を守ってくれる相手ならいいのでは?」

 そう聞くと、彼は苦笑を浮かべた。

「守る家ってなんでしょう? 僕は器には興味ありません。やはり家族がそれに当たるなら、僕の家族になる人には、自分のことは自分で守ってもらわねばなりませんね」

(つまり自分をアテにするな、と)

 いざという時には国を優先するという考え方が徹底しているのだ。

 悠里は今度は感心のため息を吐いた。


「だから僕が相手に求めるのは、経済的にも精神的にも自立して、いざとなったら一人でも子どもを充分に育てていけるようなパワフルな女性です。勝手ですが、僕も自分の子どもは欲しいなと思っているので」


 安藤がニッコリと笑って、じっと悠里を見つめる。

 こんなイケメンに熱心に見られると、さすがの悠里も落ち着かない気持ちになる。


「子どもが産める年齢で、それなりの収入を得ている女性は、同じ条件の男性よりもずっと少ない。あなたは僕にとっては貴重な相手です。しかも、こんなに綺麗な女性ならなおのこと」


 悠里は目を丸くして、安藤を見つめ返した。

(綺麗とか……本気で言ってる?)


 悠里の訝しげな顔が可笑しかったのか、安藤は笑い出した。

「感情が素直に顔に出るところも気に入りました。普段僕は、キツネとタヌキの化かし合いみたいなことばかりしているもので」


 国のキャリアや政治家を相手にする仕事なら、きっとそうなのだろう。

(だがしかし、気に入られてどうする!)

 断る気満々でここへ来たのに――


 悠里が困って微妙な表情をしているのを、安藤はずっと楽しそうな笑みを浮かべて、見つめていた。

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