エリート室長の甘い素顔
「宮村さんは私の前任者ですよ。昨年NY支社に転勤になって……」

「そうらしいね。この間帰国したときに会ったんだ。結婚したことすら聞いてなかったのに、奥さんがおめでたとかで『一刻も早く帰りたい』って。僕に対して失礼だよね」


(あれ……結構仲が良い?)


 悠里が目を丸くしている間にコートに着いた。

 人工芝の六面コートで、すでに多くの人が打ち合いをしている。

 その内の一番端にあるコートが空いていた。


「さ、始めようか」


 安藤は荷物を置き、準備運動を始める。

 悠里もコートを脱いでそれに従った。


 ストロークの、フォアとバックの握りの違いや打ち方を簡単に教わる。

 何回か振ってみたら、すぐに安藤はネット際まで下がり、球出しをしてくれた。

 悠里は教わったとおりにボールを打っていく。


「上手い上手い、そう! ちゃんと最後まで振り切って」

「腕じゃなくて、腰を回す」

「いいね、今の良かった」


 安藤は教えるのも褒めるのもやたらと上手い。

 悠里は夢中になって、真剣にボールを追いかける。

 打点までのステップや足の運び、ボレーの打ち方も習うと、なんだかそこそこ打てるようになってきた。

 球拾いと休憩を挟みながら、ネットを挟んで打ち合いをする頃には、とても楽しくなっていた。



「そろそろ終わりにしようか」

「え~……」


 そう言われて名残惜しくて振り返れば、安藤が可笑しそうに笑った。

「ごめん、コートの貸出時間がそろそろなんだ。楽しかった?」

「はい、すっごく!」

 元々身体を動かすことは好きだ。

 悠里が笑顔でうなずくと、安藤もとても嬉しそうだった。

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