チューリップの花束に愛を込めて



亜季と分かれ、俺は一人トボトボと歩いていた。


いつもの通学路は、体がしっかり覚えているもので、俺はいつしか自分の家の前までたどり着いてた。


ふと、そこに、隣の家、というより店から亜季のお母さんが出てきた。


外にも飾られている花達の水の交換か、容器に入ってる水を捨て、代わりに新しい水を注いでいた。


亜季の家にも、チューリップはあと何本かしか置いてなかった。


俺は亜季がくれた、黄色のチューリップの花束に目をやる。




『あら?健太くん?』


亜季のお母さんは俺に気がついて、俺に声をかける。


俺は、亜季のお母さんの方に体を向け、そして軽く会釈した。





『おかえり。
 あら…?可愛い花束ね?』

“おかえり”と言った時の、あの顔、亜季そっくり。

さすが親子だと思いつつ、お母さんの言葉にもう一度花束を見つめた。



『…さっき、もらって…』


俺が答えると、亜季のお母さんはクスッと笑った。





『黄色のチューリップか…
 健太くん、それ、女の子にもらったの?』


『…まぁ…』


『健太くん、その子に想われてるのね』


亜季のお母さんはそう言って、優しく微笑んだ。





『ひょっとして、健太くんの彼女?』




『…あ…いえ…』



俺が気まずそうに返事をすると、亜季のお母さんは俺の元に歩いてきた。




『そうだよね…
 もし彼女があなたに贈るなら、赤やピンク、紫よね?』



『…え…?』




『花にはね、花言葉っていうのがあるの。
 もちろん健太くんが今持ってるチューリップの花にも花言葉があってね?
 同じチューリップでも花言葉は違うのよ?
 赤色のチューリップは“愛の告白”、ピンクは“愛の芽生え、誠実な愛”、紫は“永遠の愛”っていうの。
 だから彼女からもらったんなら、赤かピンク、もしくは紫かなって』




『…そうなんすか…。
 じゃ、この色はそういうのとは違うんですね…』


俺の言葉に、亜季のお母さんは困ったように笑って、


『きっと、その花束を健太くんに贈った子は、悲しい恋をしてるのね』


そう、言った。




『…悲しい恋…?』



…亜季…が?



『黄色のチューリップは“実らない恋”、“望みのない恋”、“報われない恋”っていうの。
 こんなに人を明るくしてくれる色なんだけどね、でも花言葉ではちょっと悲しいよね…』





………。


“実らない恋”


“望みのない恋”


“報われない恋”





『黄色のチューリップって…
 “私はあなたの恋が上手くいくように応援します”じゃ…』


俺は戸惑いながら、そう言葉にする。




『きっと、この色のチューリップの花束を贈ってくれた子は、健太くんの想いを知って、健太くんが幸せになれますように、そう思ったから、そう言ったんじゃないかな?』



亜季のお母さんの言葉に、俺の頬に流れる、一粒の涙。




『その子は、きっと健太くんのことが本当に大事なのね、そして、本当に大好きなんだろうね』


亜季のお母さんはそう言って、もう一度、俺に笑いかけた。



『健太くん、その子が願ったように、幸せになってね』


亜季のお母さんはそれだけ言って、お店の方に戻っていった。





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