嘘つきな背中に噛み痕をアゲル。



突然だった。
仕事帰りに、後ろからトラックに衝突され晴哉は還って来なかった。
お味噌汁が沸騰して、切り途中のキュウリが床に散らばり、晴哉の好きだった肉じゃがは味が染み込む前にシンクに流して捨てた。
幸せに永遠は来ない。突然、浚われて奪われて、戻って来ないこともあるんだ。
潰れてしまった車からは、結婚して二カ月の御祝いに彼が買った花束が、見つかった。

彼の義母さんが、即死で良かったね、苦しまず良かったねと泣いた。
良くない。全然良くない。帰って来ないなら良くないよ。
おかえりが言いたい。
一緒に御飯が食べたい。
ちょっと作り過ぎても、嬉しそうに笑って全部食べてくれるの。
ああ、大変。きっと彼もお腹が空いているはず。
きっと、私の元へ帰ってこようと急いでいるはずだ。
たった二か月。私からたった二ヶ月で幸せを奪ったのは、祈りもしない神様だというのか。


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