嘘つきな背中に噛み痕をアゲル。
美麗ちゃんに目配せした後、私を見た。
呆れて、これぐらいしっかりしろよって鼻で馬鹿にしているような、
それでいて、もう大丈夫だからと一度眼を閉じて私に言った。
ほんの一瞬だったと思う。

その一瞬が、私の凍てつく心を揺さぶった。

「これからずっとアンタがお得意さんになるなら愛想ぐらい蒔いてやるよ。俺以外」
「そうねえ。あの腰じゃあ、もううちの親父も引退するしかないし出戻って来た私が本当に継いじゃうかもね」
「レーサーは?」
酷く短い言葉だった。
でも、その言葉が相手に突き刺さる。飾ったり回りくどい比喩はしない。
幹太は直球で、短い言葉をくれる。
その言葉が優しさからか憤りからか、労わりか悲しみか。
私には分からなくて。

「抉るわね。引退したってば。足が悪くなった途端、彼女も取り巻きも皆、消えちゃったのよ」
「――そうか」
オカマ坊主は笑い飛ばしたけれど、聞いてはいけないことだったのは明白だった。それでも幹太は表情を変えなかった。

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