英雄の天意~枝葉末節の理~
 傍(かたわ)らにいるのは仔どもだろうか、数匹の小さな獣が戯れているのを黒い瞳が優しげに見つめている。

 プレオイシスは本来、人を襲う事のないウサギや鹿などを狙う穏やかな肉食獣なのだ。

 だから両親は倒すことを躊躇い、どうにか追い払えないのもかとその動きを鈍らせた。

 野を駆けていた頃の感覚を捨ててしまったのか、この世界の非情さを忘れてしまったのか。

 二人はプレオイシスの目が覚めてくれるかもしれないという、ささやかな希望に潰されたのかもしれない。

 そんな二人を愚かな奴だと笑う者もいるだろう。

 しかしナシェリオは父と母を誇りに思っている。

 彼らは力の限り闘ったのだ。

 それを愚か者だと言い捨てて全てを無駄にする事などナシェリオに出来はしなかった。
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