英雄の天意~枝葉末節の理~
 目の前に漂う蝶にすら学ぶものは山ほどある。

 あらゆる存在に敬意を払い、どんなに小さな事も見逃してはならない──両親の教えは常にナシェリオの心に刻まれていた。

 心優しき獣の姿にナシェリオは、父と母は間違っていなかったのだと小さく笑みを浮かべて静かに目を閉じた。

「ナシェリオ」

 ふいに名を呼ばれ振り返る。

「ありがとう」

 思ってもいなかった言葉に目を丸くした。

 ラーファンはそんなナシェリオから視線を外し草原を見やる。

「あのとき、お前が剣を抜いてなければ俺たち、どうなっていたか解らないんだよな」

 苦虫を噛み潰すように発した。

 あのとき確かに、その後の二人の人生を大きく左右する瞬間だったのだ。
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