英雄の天意~枝葉末節の理~
「この塔はなんだ?」

 それを素直に信じられるほどナシェリオは若くも純粋でもない。

 己を納得させようと一つ一つ、気になることを尋ねてゆく。

「もちろん、王の塔さ。美しいだろう。世界の支配者に相応しい」

「君に一体、何があった」

 狂気を感じたナシェリオは、無意識にそれを含んだ問いかけを口にしていた。

 ラーファンはたちまちに表情を険しくしナシェリオを睨みつける。

「お前にとっては唐突だろう。だが、俺にとっては永劫とも思える苦しみだった」

 数百年という長き年月、英雄となったお前を辛気くさい穴の底からどんな気持ちで眺めていたか解るまい。

「私は──っ」

「いいんだ。もう過ぎたことだからな。こうして俺は蘇ることが出来た。また昔のように力を貸してくれるよな?」

 記憶と同じ笑みに差し出された手を掴みかけた。

 しかれども、周囲の状況が彼の動きを押し留める。
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