続 音の生まれる場所(下)
(話題変えよう。なんだかイヤな空気だし…)

「今日会わせてくれる人も、仕事関係の方ですか?」
「仕事と言うか…遊びみたいな感じかな。あっ、でもその人が言うこと真に受けないで。冗談言うのが好きだから」
「ふぅん…そうなんですか… 」

笑って話してるのを不思議に思う。冗談好きな友人…って、どんな感じの人だろう…?


公会堂の近くでユリアさんに渡す花束を買い、楽屋へ向かう。その途中で、いきなり坂本さんが走り始めた。

「レオン!」

大きな声で叫んでる。廊下にいた背の高い男性が振り向き、嬉しそうに声を上げた。

「SAM!!」

二人して駆け寄りハグし合ってる。まるで柳さんと再会した時みたいな感じ。いったいどんな関係の人…?
ぽつん…と一人取り残される。早口で喋る二人を見てるとこっちが異邦人になったような気になる。

(ヤダな…この最近こんな事ばかり…あ…こっち来る…)


「小沢さん、レオン・シュルツだよ。僕がドイツでお世話になったオケラのコンマス」

ブルーの瞳がキラキラしてる。彫りの深い顔。いかにも外人さんって感じ。

「HaIIo!」
「あ…こ、こんばんは…」

坂本さんの記事を思い出した。

「…もしかして、親切にしてもらったって言ってた方ですか?」
「そうだよ。レオン…」

ドイツ語で私を紹介してる。ピューッと口笛を鳴らして、男性がこっちを振り向いた。

「ミス・バタフライ!」
「えっ⁉︎ 」

ぎゅうっと抱きすくめられる。。

「な、なに…⁉︎ 」
「レオン…!」

坂本さんの声にその人が放れる。それから機関銃のように喋り出した。

「ミス・バタフライ… 」から始まって、後は全部ドイツ語。何言ってるかさっぱり訳が分からなくて坂本さんを振り返った。
くぃくぃ…とスーツの裾引っ張っる。通訳して下さいと頼んだ。
困ったような顔して彼が私を見る。コホン…と咳払いをしてそれから教えてくれた。

「…君のことを、現代版、蝶々夫人だと言ってるんだよ」
「蝶々夫人…?あの有名なオペラ?」
「知ってる?」
「あまり。…でも確か、離れ離れになる夫婦の話…ですよね?」

うろ覚え。坂本さん笑ってる。どうも少し間違えたみたい。

「それがどうして私だと…?」
「それは…」

レオンさんの言う言葉を聞いて通訳するのを躊躇ってる。彼のこんな困った顔、初めて見る気がした。
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