続 音の生まれる場所(下)
「SAM!その子は誰⁉︎ 」

工房の外で女性と一緒にいる所を見つかってしまった。

「昨日とは違う子よね⁉︎ どうしていろんな子と付き合うの⁉︎ 」

日本で言ったら高校2年生。17歳のユリアには、大人の事情は分からない。

「誰とどんな付き合いしたっていいだろ⁉︎ 僕の勝手!」

イライラしながら答えた。この工房に通い出してから、毎日そんなふうに乱れた生活を送っていた。

「良くないよ!『SAMURAI』は『SAMURAI』らしく、修行しなきゃ!」

知った様な事を言う。こっちだって、好きでこんな事してる訳じゃない。

「僕は『SAMURAI』じゃない!何度言えば分かるんだ!」

日本人と言えば誰もが『SAMURAIか?』と聞いてくる。そうでなければ『ニンジャ』だ。

「SAMは『SAMURAI』よ!そうでなければ、毎日ここに通ってくる筈がない!」

力強く断言するユリアの目には迫力があった。僕を『SAMURAI』だと信じて疑わなかったのは、彼女とレオンくらいだ。

「とにかく女の子と遊ぶのはやめて!一人に絞った方がいい!」

ユリアのアドバイスは間違ってない。確かにその方がいいに決まってる。でも…

「この国には僕の好みの子はいない!だから皆と付き合ってる!」

日本を離れる時に握手した相手を思い浮かべる。彼女以外の子と真面目に付き合うなんて僕には考えられない。

「好みの子…⁉︎ 『SAMURAI』の好みってどんな子⁉︎ 」

興味津々で聞いてくる。引き合いに出したい彼女は日本人。日本女性と言えば…

「やまとなでしこ…だな」

パッと思いついた名詞を呟いた。

「『ヤマトナデシコ』⁉︎ 何それ⁉︎ 」

日本語に興味があるユリアにとって、『ヤマトナデシコ』はセンセーショナルな響きがあったらしい。
目を輝かせて聞いてきた。

「『ヤマトナデシコ』は日本の最上級女性のこと!この国には絶対にいない!だから一人には絞らない!」

呆れたような顔をされた。その時からユリアは僕が女性といるのを見かける度に彼女達に言っていた。

「あんたとは遊び。『SAMURAI』は『ヤマトナデシコ』が好きなんだから!」



「……今思い返しても、その時のユリアはあんまりだった気がするよ…」

遊びだと言われた女性達を気の毒がってる。誰に対しても優しくしてたと聞いてはいたけど…。

「…私はユリアさんに感謝したいな…」

ぽそっと言った本音に、えっ…って表情された。恥ずかしくなって顔を半分隠した。
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