続 音の生まれる場所(下)
「だって…そう言われたら本気にはならないでしょ?」

自分が言われてないから何とも言えないけど、実際言われた人は結構引いちゃってたと思うから…。

「それにしても最上級女性なんて…例えがヘン過ぎます」

来日してからこっち、ユリアさんがどんな目で私を見てたか考えると怖くなった。

「そうかな。僕にとっては最上級って意味なんだけど、君が…」
「お世辞言ってもダメ!身の程は分かってます!」

近付いてくる彼に風邪をうつすまいと布団を引き寄せる。汗のニオイするから、それ以上近づかないで欲しい。

「真由子…」
「ダメです!近づかないで!」

風邪うつさないように…と気を遣ってるのにお構いなし。近付いてくるから彼の顔に、ぎゅっと目をつむった。

(ん…?)

額が生温かい。
ぱちっと目を開けると、彼がおでこをくっ付けてた。

「うん…熱はないね」

安心した様に離れてく。ヘンに勘違いした自分が急に恥ずかしくなった。


「真由ー!着替えたー⁉︎ 」

遠慮もなく夏芽が飛び込んで来る。いいタイミングにホッとして顔を出すと、くるっと背中を向けられた。

「ごめん…邪魔だったね!」

坂本さんがいるのを見て逃げ出そうとする。それを彼が呼び止めた。

「待った!何もしてないから!」

その声に夏芽が振り向く。いたずらっぽい顔をして、ベッドの側にやって来た。

「真由ママがね、皆でお祝いしようって。起きれる?」

花瓶に生けた花を棚の上に置きながら聞く。

「…うん。大丈夫」
「じゃあ着替えたら下りといで。待ってるよ!」

夏芽に誘われて坂本さんも一緒に立ち上がる。二人が部屋を出て行った後、急いで服に着替えた。
顔を洗ってリビングへ行く。ドアを開けると、両親と親友とカレシが迎えてくれた。

「誕生日おめでとう!」
「ハッピーバースデー!真由!」

テーブルの上に置いてあるのはケーキ。こんな早くからお店なんか開いてないはずなのに何故⁉︎

「それ…どうしたの?」

思わず聞いた。

「お父さんが昨日仕事帰りに買って来てくれてたのよ」

イチゴがたくさん乗った美味しそうなタルト。私が好きなのを知ってて、わざわざ店に寄ったらしい。

「…お父さん……ありがとう…」

厳しいけど、誕生日だけはいつも一緒に祝ってくれる。この28年間、一度だって欠かしたことがない。

「…たまたま店の前を通ったら、売れ残ってただけだ」

強がってる。そんな所は私と一緒だ。

「ほら、真由も座りなさい。ケーキ食べるわよ」

一番の上座に通される。切ってくれたタルトに舌鼓をうつと、夏芽が不思議そうに質問した。

「…そう言えば…真由ん家はどうしていつも家族でお祝いするの?」

自分でもナゾに思ってたこと。これまでは聞いたこともなかったけど…。

「ホント…どうして?」

両親の顔を見た。黙々…とケーキを食べてる父の横で母が笑って言った。
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