続 音の生まれる場所(下)
「もう…そんなハッキリしない言い方なんて…サイテー」

怒ったように歩き出す。ホントはそういう事もあるって理解はしてる。でも、彼に同じ事を繰り返して欲しくない…。

「待って!真由子!」

手を掴む。振り解こうとしても力一杯握っすてくる。だから、ちっとも解けない。

「放して…」

心にもないこと言う。彼が微笑む。そんなの願ってないって、ちゃんと分かってるんだ…。

「放さない!」

ぎゅっと抱き寄せる。
理さん…ここ、空港…だよ…。

「あの…」

行き交う人に見つめられてる。ヤバい。すごい恥ずかしい…。

「……しよ…」
「えっ⁉︎」

な…何言ってるの⁉︎ こんなとこで。

腕の力が緩む。
恥ずかしそうにする彼の瞳の中に、驚いたような顔してる自分がいた…。

「真由子と結婚したい…できれば今すぐ」
「えっ⁉︎ 今すぐ⁉︎」

唖然とする。突然なに言い出すの⁉︎ この人…。

「でも…まだ結婚資金稼げてないから…」

だよね。そんなの稼ぐ前に、まずは工房の設立資金だもんね。

「だから…1年待って。次の真由子の誕生日の日にしよう!」

勝手に決めてる。私まだ、何も聞いてないのに…。


「あの…理さん…」

大事なこと忘れてない⁉︎ 式の日取りよりも先にしないといけないこと…。

「何…⁉︎」
「私まだ…聞いてないけど…」
「何を?」
「だ…だから…プ…プロポーズの言葉…」

…顔、熱っ。絶対赤くなってる。

「…したじゃないか。今」
「えっ⁉︎ いつ⁉︎ 」
「さっき。結婚しよ…って」
「えっ⁉︎ さっきそう言ったの⁉︎ ハッキリ聞こえなかったよ!」

反論して押し黙る。こんな人混みの中でプロポーズなんて、想定外だし!

ザワザワ…と騒々しいロビー。アナウンスの声も響き渡る。
いろんな音が飛び交って、空港(ここ)はまるで…劇場みたいだ…。

「……結婚して下さい…」

彼の声がハッキリと耳に届いた。まるで、あの日の音のよう……。

「真由子と一緒に生きたい。僕の側に…居て欲しい」

真剣な眼差しが注がれる。彼の言葉を反芻し、ゆっくりと噛み砕いた……。



「…一緒にいます…だから…ずっと側に置いて下さい…」

ぎゅっ…とシャツの背中を掴んだ。

この人は私を一人にしないと言った。
もう二度と、心細い思いはさせないと言った。
だから私も…彼についていくーーー。


「…真由子」

優しく名前を呼ばれる。
この声を、いつも聞ける場所に居たい。
自分の手が届く場所で、彼のことを見つめていたい。

そこは…彼と私の夢が詰まった場所。
愛を育み、円を広げ、誰もが明るく笑える場所。


そして、いつか…
世界に向けて鳴り響く


『音の生まれる場所』になるんだーーーー。


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